6月10日「送料無料」

送料無料

通信販売で注文する際、「送料無料」となると買う者としては嬉しくなるし、「〇〇円以上送料無料」となると無理して〇〇円以上買ってしまうものだ。

 しかしもともと送料は無料であるはずはない。輸送のためのガソリン代や運転手の労働賃金がかかってくるはずである。特に運搬する運転手の労力は大変なものだ。以前、私は高速道路を運転していて、大型トラックが無理な追い越しをかけたり、スピード違反をして走行しているのを腹立だしい思いで見ていたが、一度運送会社の運転手の刑事事件を弁護したことがあった。その時運送業界事情がよくわかったが、運転手には過酷な労働条件が課せられている。何時までにどこそこに届けなければならない、時間のことを考えれば勢いスピードを上げて無理な追越しもしたくなるものだ。それからは長距離運転手のことをむしろ同情の目で見るようになった。

 送料に限らず、日本人は「人の働き」にお金を払いたくないと思っているのではないかと考えられる。

 弁護士事務所に相談に来て、訴訟にして訴状を出したり相手方に通知を出したりすれば、依頼者はお金を出すことに納得するが、「こんなメールに対しては無視して返事をしない方がいいですよ」とか「こんな契約書に署名押印したら後悔することになりますよ。無視するに限ります」と貴重なアドバイスをしているのに、何だ、相談だけでお金を取るのか、というような顔をされる。とんでもない。損害を負わされずにすんだ、という大きなメリットには目がいかないようだ。

 冒頭の問題に戻すと、だから「送料無料」ではなく、「送料は販売者側で負担します」というべきなのだ。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。