10月10日 (2020-10-10)

 A子は夫亡き後しばらく一人で生活していたが、年を取って心細くなったので長男夫婦と同居することにした。A子宅に長男夫婦が転居して来ることになったが、2世帯用住宅に改築することとし、その費用は長男が支出することになった。そこで長男が「この際、この土地・建物をオレの名義にしてくれ。」と言うので、A子は言われるがままに長男名義に移転登記した。
 長男夫婦と同居した後のA子の生活は悲惨だった。ほとんど一室に閉じ込められ、嫁が食事を運んでくるだけで、自分で台所に立つこともできず家族の会話も無い。友人を自宅に招くことも禁じられている。こんなはずではなかった、もとの一人の生活に戻りたいと言うと長男に「これはオレの家だ。イヤだったら出て行ってくれ」と言われたと言う。名義を長男にするのではなかったと悔やむことしきり。
 だから私は色々な所で講演する度に、「自分の財産は死ぬまで自分で持っていること。不動産や預貯金を一時の甘言に乗せられて生前贈与するのは考えものですよ」と言っているのである。
 もう一つ私がくどい程言っているのは、「簡単にハンコを押すな」ということ。
 B子は、父親が亡くなって遺産相続の話になったとき、長男である兄から、「お前の面倒はオレが責任をもってみる。お前が結婚する時や、家を建てる時は、その資金援助はすべてオレが出す。だからオヤジの預貯金はすべてオレに任せてくれ。」と言われ、ほとんど長男が相続する旨の遺産分割協議に署名・押印した。実印の印鑑証明書まで付けて。
 数年後B子が結婚することになり、その費用を兄に請求したところ、「お前が働いて貯めた金があるだろう」と言われたので、「お兄さんが私の面倒を見る、費用は全部出すと言ったから、私は相続の時何も貰わなかったでしょ」と言い返したが、「そんなことを言った覚えは無い。オレが○○家の長男として家を守るために全部相続したのだ」と言って、取り合ってくれない。
 簡単に実印など押すのじゃ無かった。あの時せめて兄から「お前の結婚式費用、家の新築費用はオレが負担する」という一筆を取っておくのだったと後悔している。
 遺産、不動産、大きなお金のやりとりなどに関して、書類にハンコを押す前に、先ず弁護士に相談してほしいと色々な場で私は口を酸っぱくして言っているのだが・・・。相談料5千円で、大きな損失を未然に防げれば安いものではないですか。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。

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