7月10日 (2016-7-10)

 A男が上告審の依頼をしたいと事務所に来た。
 A男は、慰藉料請求の訴をB弁護士に依頼したのだが、それが到底認められそうもない請求内容で、しかも、5000万円の請求。当然請求棄却(請求は認められない)の判決が出たが、それを不服として、A男の代理人であるB弁護士は高等裁判所に控訴したが、もちろん控訴棄却の判決。「まだ最高裁判所がある」という訳で、私に依頼に来たのだ。
 しかし、最高裁判所は、何でもかんでも受け付けるというわけではない。憲法違反か最高裁の判例違反になるような内容でなければならない。そもそも、A男の請求は、自分の留守の管理を隣人に頼んだのに、十分に管理してくれなかったから留守中に泥棒が入り、高価な絵画や宝石を盗まれたというもので、盗まれた物が5000万円もするという証拠もないし、泥棒に入られた損害の責任が隣人にあるというもの無理な話だ。
 私は、こんな依頼を受けたB弁護士に腹がたった。A男が、「どうしても訴えたい。腹の虫が治まらない」と言ったかもしれない。それなら、A男の納得のため「受任しましょう」というところまでは、まぁ仕方がないのかもしれない。でも、そうならば5000万円の請求ではなくて、一部請求という方法がある。
 損害は5000万円だが、とりあえず、200万円を請求して認められたら、残り4800万円を請求するのである。なぜそのような一部請求をするかというと、いくら請求するかによって訴状に貼付する印紙額が相当違うからだ。200万円請求するなら、印紙代は1万5000円で済むが、5000万円請求するなら、17万円なのだ。請求額を5000万円として控訴すると、その印紙代は、25万5000円となる。
 結局A男は、合計42万5000円もの印紙代を負担し、B弁護士に弁護士費用として200万円近く支払ったという。
 なぜ一部請求にしなかったのかとA男に聞くと、B弁護士からそのような方法についての説明はなかったという。
 この10年間司法制度改革で弁護士が圧倒的に増加した。自分の主張を聞いてくれる弁護士に出会うまで、転々と弁護士事務所を訪れる人も増えたと聞く。
 以前私の事務所に来て、慰藉料1000万円を請求したいという依頼者に対し、「1000万円は、到底認められませんよ。300万円にしましょう」と私が話すと、「それでは、そうしましょう」という依頼者が多かったが、最近では、「それなら結構です」と帰る人が出て来た。弁護士によっては、「よし、1000万円を請求しましょう」ということになるのだ。
 弁護士過疎を解消して、住民がどこでも気軽に相談できる弁護士を、ということで司法改革がされたはずなのに、弁護士増加がかえって市民の権利擁護につながらないというのが現状では、困ったものである。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。