12月10日 (2015-12-10)

 A男は、定年退職して時間ができたので、隣地に一人で住む70才の男性B太郎の生活の面倒をあれこれとみるようになった。B太郎の家の草刈り、落と葉掃き、建具の不具合の調整、柵を吊ったり、電球を取り替えたり。
 B太郎は、A男に感謝し、昨年、「定期預金が満期になったから」と言って、その中から100万円をA男にくれた。A男は、「これまで無償で5年間も材料や労力を提供して来たことだからな」と思って、ありがたく100万円を受領した。
 ところが、今年になって、B太郎は、「100万円は貸したものだから返せ」と言って来た。しかも、弁護士を頼んで訴えを起こして来たのだった。
 私は、A男の代理人となってA男の言い分を主張した。「貸した」と言うなら、借用証はあるのか、どのような条件で返済すると約束したか、そのようなものは何もないだろう、と。
 裁判官が、和解を勧めた。和解というのは、たいていの場合、裁判官がA男のいない席でB太郎の話を聞き、B太郎のいない席でA男の考えを聞き、また、A男、B太郎をそれぞれ呼んで和解を勧める、というやり方だ。
 A男と私が呼ばれて裁判官の話を聞くと、裁判官は、B太郎の手帳に、「○月×日、A男に100万円貸す」と記載があった、親戚でもない、ただの隣人に100万円もやるというのは、好意にしては多額過ぎるのではないかと言う。しかも、定期預金は200万円だったので、その半分というのはB太郎にとっては大金だろう、せめて受領した100万円の半分の50万円をB太郎に払うということは考えられないか、と言われた。
 もし、本当にB太郎が100万円を貸したと思っているのなら、50万円で和解はしないだろうと思ったが、結局、この件は、A男がB太郎に50万円を払うという内容で和解が成立した。
 思うに、裁判官は、B太郎側には、借用証もないし、弁済方法も決めていないかったから、貸金だという主張は困難ではないか、しかも、5年間も世話になったのだから50万円くらいはやってもいいのだはないか、と説得したのではないだろうか。
 裁判官の二枚舌、と言っては悪いが、うまく和解を成立させる裁判官は、それなりの経験と方法を心得ていることなのだろう。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。