夫婦の別居期間 (2006-3-15)

 男性Aは、妻子がありながら、行きつけのバーのホステスと深い仲になり、結婚を約束した。妻に離婚してほしいと頼んだが、妻は聞き入れてくれない。
そこで、Aは、家を出てホステスと同棲を始めた。何回か妻に離婚を迫って調停も出したが、妻が応じないので、5年後Aは妻を相手に離婚の裁判を起こした。
 このような場合、裁判でAの主張を認めることはAのわがままを許し、いかにも妻がかわいそうだと誰もが思うことでしょう。

日本の裁判の考え方も、責任ある者からの離婚の請求は許されないという、いわゆる有責主義をとって、ずっとAの請求を認めない立場を貫いて来た。
 これに反し、いわゆる破綻主義の考え方は、どちらに責任があろうと夫婦の間が破綻していれば離婚せざるを得ない、というもので、イギリス、ドイツ、アメリカなど多くの国でこの考え方がとられている。
その場合、破綻の原因を作った方が相手に対して慰藉料を支払うのは当然であるが、お金のある人はいいとして、無い場合はどうしても十分な慰藉料を夫から取れないまま離婚になるケースが多い。
そこで最近アメリカでは、やはり有責主義をとった方がよいのではないかという議論が持ち上がっているという。
 日本では今、離婚制度の見直しが審議されていて、5年間程度別居している場合には、これを離婚原因としようという方向で改正される可能性が強い。
その背景には、最近ではむしろ妻から夫に対して離婚を要求するケースが多く、昔と比べて妻の経済力や社会的地位もずっと強化されたのであるから、もはや棄妻防止という有責主義の効果を考える必要はなくなった、という事情がある。

 果たしてそうであろうか。

 先日私のところに相談に来た女性は、看護学校に通ういわゆる学生妻で、医者である夫の助けになろうと勉強中であるが、夫に女医さんの愛人ができて、
「もうお前は必要でなくなった」
と言われ、離婚を迫られているという。
夫は、女医さんと同棲していて、彼女には最低限度の生活費しか送金しない、彼女は妊娠4ヶ月で、夫が自分の元にもどって来るのを信じて待っているというが、こんな状態がいつまでも続くと、否応なしに離婚になってしまうのでしょうか、と不安を訴えている。

このようなケースもまだまだ日本には多いことを考えると、私はいちがいに改正案に賛成することはできない。

 皆さんはどう思われますか。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。