不貞の慰藉料 (2006-3-5)

 男性に妻がいることを知っていながら、その男性と関係を持った女性は、妻の座を侵害して妻に精神的苦痛をこうむらせた、という理由で慰藉料の支払義務がある場合が多い。
不貞の慰藉料といわれるものだが、これがいったいいくら位が相当なのかよく聞かれる。しかし、ケースバイケースで一口にいくらとは言えない。
 私の取り扱ったケースで、最高は900万円であった。
 これは、夫が下請建築会社の社長で妻との間に3人の子どもがいるのに、元請会社の社長の娘と愛人関係になって、子どももできた。妻には出張だとか現場に泊り込むなどとウソを言っては、愛人宅に泊っていた。
また、愛人名義で土地を購入して、資材置場にして愛人に賃料を払い、さらに、愛人を社員扱いにして給与も払っていた。
妻は夫を信じて、姑とも仲良く暮らし、育児に専念していたが、会社の従業員の口から愛人がいるのを聞いて事態が明らかになった、というケース。
 今までウソを通して来た夫は、事が明らかになった時、愛人を選択して妻に対して離婚調停の申立をしたが妻は離婚には応ぜず、かえって愛人に1000万円の慰藉料の請求をしたところ、判決で900万円が認められたのである。
 私の取り扱ったケースで、最低は30万円。
 これは、夫が医者で看護婦と愛人関係になって、子どもができ結婚の約束をしながら、なかなか妻と別れてくれないので、業を煮やした看護婦が、直接妻に
「早く別れてほしい」
と談判し、妻に初めて愛人の存在がわかった、というケース。
 このケースでは、夫が妻を選択し、
「愛人関係を清算したいと思っていたが、バラすと言われてできなかった。今度こそ手を切る」
と妻に謝って500万円の自分の定期預金を妻に渡したので、妻は夫を許して離婚は思いとどまり、看護婦に500万円の慰藉料を請求したが、判決で30万円しか認められなかった。
妻はこれを不服として控訴したが、控訴審でも50万円しか認められなかった。

 この様に様々なケースがあるので一概にいくらと言えないのであるが、聞くところによると、ドイツやフランスでは、日本と違って愛人に不貞の慰藉料支払義務はないという。夫婦間では守操義務があって、これに違反した場合、配偶者に慰藉料を支払わなければならないのは日本の法律と同じであるが、配偶者の愛人は、いわば恋愛の自由という名のもとに行動したのであるから何ら債務は発生しないというのである。
 これを聞いて、
「私もドイツやフランスに生まれたかったわ」
という女性もいるが、妻の地位が日本と比べると不安定であるから、他の女性に夫をとられないように結婚後も妻は自分の魅力を維持するよう努めなければならないのも事実であろう。

 あなたはどちらに生まれたかった?

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。