個人版私的整理ガイドライン(被災ローン減免制度)
~震災被災者限定 自己破産せずに債務整理する方法~
東日本大震災で,いわゆる二重ローン問題対策としてできた制度として,個人版私的整理ガイドラインがあります。
「個人版私的整理ガイドライン」では何のことだかよく分からないだろうということで,日弁連や弁護士会は「被災ローン減免制度」と呼んでいます(もっとも,「被災ローン減免制度」の方が分かやすいかというと,賛否両論ある気がします)。
被災ローン減免制度は,震災の影響により債務の返済が困難となった方の債務を免除するための制度です。主として住宅ローンを念頭に作られましたが,免除を受けられる債務は住宅ローンに限りません。
以前触れた「経営者保証に関するガイドライン」同様,法的拘束力はないものの、金融機関等の利害関係人によって自発的に尊重され遵守されることが期待されたルールです。
個人の債務者が債務の免除を得る方法としては,自己破産があります。
しかし,たとえばギャンブルなどで借金を作って返せなくなった場合と違い,震災の影響で債務を返せなくなったのは,本人のせいとは言えません。それなのに,破産しなければ債務から解放されないというのはあんまりです。
被災ローン減免制度は,自己破産を避けることができる債務整理であると同時に,自己破産と比べたときに,以下のメリットがあります。
- 信用情報登録機関(いわゆるブラックリスト)に登録されない。
- 手元に残せる自由財産の範囲が広い(自己破産の場合は現預金99万円程度なのに対し,被災ローン減免制度の場合は500万円程度)。
- 弁護士費用がかからない(自分の代理人ではないものの,個人版私的整理ガイドライン運営委員会に登録された専門家弁護士が支援に当たり,かつその費用は同運営委員会から支出される)。
- 保証人も保証債務の免除を得られる(債務者が破産しても保証人は保証債務を免除されないが,債務者が被災ローン減免制度を利用した場合,原則として保証人に債務の履行を求めないこととされており,例外に当たらない限り,債務者とともに保証人の保証債務も免除される)。
被災ローン減免制度は,このようにメリットの多い債務整理手続ですが,残念ながら利用は進んでいません。当初は約1万人の利用を見込んでいたにもかかわらず,これまでの成立件数はその1割強にとどまっています。
今年2月,仮設住宅で暮らす人を対象とした東北財務局の調査において,被災ローン減免制度を「知っている」と答えた割合は2割弱だったとの報道がありました。せっかく制度があるにも関わらず,知らなかったために破産する被災者が出ないよう,さらなる周知徹底と利用促進が望まれます。
この記事を書いた弁護士
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弁護士 曽我陽一(新潟の米農家出身。趣味はマラソン)
1998年 東北大学法学部卒
2001年 弁護士登録(東京弁護士会)
2008年 宮城県仙台市青葉区に曽我法律事務所を開設
2022年 藤田・曽我法律事務所開設
2022年4月~ 東北大学大学院法学研究科教授
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