7月10日 (2015-7-10)

 午前中に相談に来たA子は、約1時間しゃべりっ放しだった。
 自分がいかに母親に尽くしたか。嫁にも行かず、60歳まで、ひたすら母親の面倒をみて来た。兄嫁は、何もせず、夫婦で旅行をして遊んでばかりいた。妹も結婚して鹿児島で生活し、この10年一度も母を見舞っていない。自分だけが不幸な人生だ……。
 いったい私に何を相談したいのか、さっぱりわからない。私が、ちょっとでも口をはさもうとしても、A子はそれを制してまくし立てている。
 やっと最後に、A子は、「だから私は、他の兄妹よりも、たくさん遺産をもらうべきだ」と主張したのだが、肝心な母親の遺産は、どのようなものがあって、他の相続人がどう考えているのか聞き出そうとしたら、「あ、私、昼までに行かなきゃならない所があるので、また来ます」とそそくさと帰ってしまった。

 午後に相談に来たB子、自分の老後が心配だと言う。
 「子どもは、何人いるのですか」と私が聞くと、「3人いたのだけど……」と、その後B子は黙ってしまう。「『いたのだけれど』と言うと、今は?」と私が聞いても、B子は、2分くらい黙って、やっと「一人死んでしまって」と言う。
 私が、「何を心配しているんですか?経済的なこと?介護のこと?」と聞いても、B子は黙ったまま。「しゃべることが苦手だったら、私に聞きたいこと、してもらいたいことを文書にして、この次持って相談に来て」と言うと、B子は「書くのは苦手だ」と言う。
 30分くらいかかって、やっとB子の希望は、老後の心配がないよう夫に遺言を書いておいてもらいたいということを聞き出せた。私が「それなら、夫を連れて、また来て下さい」と言うと、B子は、「夫に言い出せない」とか、「夫に言っても、来ないに決まっている」とか言う。

 せっかく私を頼って事務所に相談に来てくれたのだから、何とかしてあげたいが、このような相談者に法的アドヴァイスをすることはできない。
 多弁でも無口でもないちょうどよい人の相談にのりたいなぁ。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。