弁護士のアフターケア

 弁護士は事件のアフターケアをどこまでやるべきか。

 調停で分割払いを受ける合意をしたのに途中で支払いがストップした場合は、相手方に支払催促の手紙を出したり、裁判所に履行勧告をしてくれるよう申立てをしたりする。いじめやセクハラを受けた被害者側として学校や会社と再発防止の合意をした事件でも、その後のいじめやセクハラが行われていないか依頼者から報告を受け、再びいじめやセクハラと思われる行為があれば改めてやめるよう学校や会社に文書を出す。子どもと面会交流調停で合意したのにその約束が守られていない場合も、相手方に調停条項を守ってくれるよう手紙を出したりする。これらは通常のアフターケアとしてやっている。  

 しかし、B子の場合はちょっと違う。父親が亡くなった後、遺産を巡って母親、兄と対立したB子。私はB子の代理人として、母親と兄を相手方として遺産分割調停の申立てをしたが、2年かけても合意に至ることはなく、家裁の審判が出され、やっと終わった。

 B子は結婚して実家を出ていたが、調停中はもちろん母親や兄との交流はなかった。しかし、この頃になってB子は自分が子どもの頃、どれだけ母親が自分をかわいがってくれたか、自分が結婚する時、涙ながらに送り出してくれた母親はどんなに寂しい思いをしたか、などなど思い出すうちに母親と会いたくなり、母親に手紙を書いた。そうしたところ、母親と同居している兄から返事がきて「母親と直接接触するな。弁護士を介せ」と言ってきた。

 そこで、以前の遺産分割調停事件の時に母親と兄の代理人だった弁護士に電話して母親への伝言を頼んだところ、その弁護士から「遺産分割事件はもはや終了しており、私は今ではもう代理人ではありません」と断られて、それで私の事務所に来た訳である。

 もう一度切々と手紙を書いて親展として出してごらん、お兄様には電話で是非手紙を母親に読んでもらってほしいと伝えてそれでもダメだったらまた事務所にいらっしゃい、とB子には言った。これは法律問題ではなく、私としてもどこまでB子の立場に立って物が言えるか困惑しているのが正直なところだ。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。