8月10日 前を向いて

 時々、かつての離婚事件の依頼者だった女性が事務所に立ち寄ってくれる。「あの節はお世話になりました」と言って菓子折りを持ってきてくれる。離婚の裁判中はやつれ果て、精神的にも不安定でイラついていたが、今は晴れ晴れとして若々しく「孫の世話に追われています」とか、「フラダンスにはまって毎週レッスンに通っています」とか、いきいきとして現況報告をしてくれる。

 これに対し、男性は離婚後新しい一歩を踏み出せず、いつまでも前のことを引きずっているのではないか。

 A子の相談は、元夫から訴えを起こされたということだった。訴状には「A子が実は婚姻中に浮気をしていたということが最近同僚の話からわかった。不貞の慰謝料を請求したい」という趣旨のことが書かれている。A子は全く身に覚えのないことだという。私が代理人となって答弁書を提出し、一回目の裁判に出廷すると、元夫も出廷して来て、次回にはA子本人にも是非出廷してほしいと訴える。それを断ったが、元夫は何としてもA子本人と話がしたいと言う。要するにお金の問題ではなくて、A子と再びつながりを持ちたいのだ。A子は元夫の顔を見るのもイヤだと言っているのに。  

 B子の場合もそうだ。元夫から「財産分与の計算に間違いがあった。もう一度話し合いたい」と調停の申立がなされた。本裁判と違って調停なので放っておいてもよいが、元夫の納得のため私が代理人となって出頭した。私の顔を見て元夫は失望し、「本人は来られないんですか」と言うので、「来られないんじゃない、来たくないのですよ」と言ってやった。男性も過去のことにいつまでも拘泥していないで前を向いてほしいものだ。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。