9月10日 (2015-9-10)
A男は、以前交際していたB子からA男の子を産んだということで、慰藉料や養育費を請求された。A男は、今後もう一切B子と関わりたくないということで、B子に一〇〇〇万円近い金額を払い示談した。その示談書を私が作成して、A男とB子は、今後一切何の請求もしないという条項に、双方納得して署名・押印したのだった。それが一ヶ月前。
ところが、今回B子からA男に対して、子どもの養育費請求の調停が申し立てられた。A男は、びっくり。私も、びっくりして、B子に「今後一切何の請求申立しない、と約束したはずだ」と言ってやったが、B子の言い分は、「それはあくまでもB子とA男の関係清算ということで、子どもの親に対する権利は、別にある。だから私は、子どもの親権者として、A男に養育費を請求するのだ」と言う。
一〇〇〇万円近くの金額を払ったのだから、それは当然将来の養育費も含んでいる、ということだったはずだと私が言っても、B子は承知しない。
調停でも、A男は、それを主張し、当然一〇〇〇万円近い金額は、ただの慰藉料以上のものだという主張は認められると思うが、厄介な問題を抱えてしまった。 示談書にひと言金額について将来の養育費を含む、と記載しておけば良かった。それをしなかった私の示談書作成にミスがあったかと、どれ程自分を責めて後悔したことだろう、毎日寝ても覚めても、自責の念に駆られている。
太平洋戦争を思い返して、深い後悔の念を抱いている人の話が、新聞に掲載されている。
出征する兄を見送るはずが、遅れてしまい、兄が乗る汽車の出発に間に合わなかった、それが一生の別れになったのだから、なぜ早く家を出て見送ってやらなかったのだろう。
広島原爆の後、「水、水」と呻いた母親に、水を飲ますと死ぬと言われていたので、水をやらなかった。どうせ死ぬなら、思い切り水を飲ませてやれば良かった、と。
一ヶ月5万円の養育費の請求でも、こんなに後悔しているのだから、生死に関わる後悔とはどんなに辛く、そして何十年も続くものか、と痛感している。
この記事を書いた弁護士
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藤田・曽我法律事務所代表弁護士
仙台で弁護士を始めて50年以上。
この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。
注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。
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