2月20日 (2019-2-20)

 私の弟が70才で裁判官を退官し、東京近郊で弁護士になった。いろいろわからないことがある度に、私に電話してくる。私の事務所で使用している委任契約書を始め、種々の書類のひな型を送付してやったが、依頼者との関係でどうしたらよいのか戸惑うことが多いようだ。例えば、あまり証拠価値がないと思われる資料を「証拠として提出してほしい」、「この人もこの人も証人として尋問申請してほしい」、「これ以上ないとは思うが、もっと夫の財産調査をしてほしい」等々。
 弟は、今まで裁判官だったから、出された資料や主張されている事実に基づいて、法律的に判断して判決を出すのが仕事で、直接事件の当事者と接触する機会は少なかったかもしれない。
 しかし、弁護士というのは、まず、依頼者の話をよく聞いて、何が不満なのか、何がしたいのかを把握し、その後に訴状や申請書を書いて出すのだ。
 裁判官から見たら、「こんな無駄な証拠を出して」とか無理な主張だと思われるかもしれないが、依頼者本人の満足度も考えなければならない。依頼者本人としては、あれもこれも提出して、その結果敗訴したなら仕方がないと思っても、「あれを主張してくれたなら」、「これも提出してくれたなら」と思うと、いつまでも不満が残るものなのだ。そこを裁判官は、理解できないのかもしれない。
 裁判官は、当事者(原・被告)に片寄らず、中立の立場で判断しなければならないが、弁護士は、まず依頼者の立場に立つという点が根本的に違うのだ。
 それがわからないと、良い弁護士にはなれない。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。