冷たい母と孫思いのおばあちゃん (2006-2-5)

 親、特に母親が未成熟の子を保育・監護することは自然の本能だと言われてきた。ところが、最近の相談の事例をみると、必ずしもそうとは言えないのではないかと思われる。

 先日私の事務所を訪れたのは初老の婦人で、相談内容は次のようなことであった。

「娘のA子が、夫と離婚した。どうも原因はA子の不倫が夫にバレたことらしい。A子夫婦はずっと共働きだったので、生まれた子(仮に「健太」とする)は、ずっと祖母である私が育てて来た。今回の離婚の際、A子は新しい恋人と一緒になるのに、子どもはいらないというし、A子の夫も、『不倫するような女に子どもは預けられない』ということで、親権者は父ということにした。ところが健太は私の家を離れたくなくて、毎日『おばあちゃん、お願いだからボクをずっとここのおうちに置いてくれ』と泣いている。健太の父親が、何回もうちに来て子どもを引き取りたいと言うので、健太はいつもおびえて幼稚園にも行かないようになってしまった。私も健太を手許から放したくないので、健太の父親に何とかしばらくはこのままの状態にしておいてくれと頼むのだが、彼は裁判にかけて子どもを取ってやる、と言っている。どうしたらよいのでしょう。」

 子どもの両親が夫婦である場合は、両親が共同して親権を行うが、両親が離婚する場合には、その一方だけが親権者となる。そして、親権者となった者が子どもと同居して、実際に監護・保育・教育するのが普通である。もし、未成年者に対して親権を行う者がないとき(例えば死亡、親権の喪失親権を濫用し、または著しく不行跡があって家庭裁判所が親権の喪失を宣告した時など)は、祖父母が後見人として未成年と同居して監護等できるが、本件の場合、健太の父親が親権者であるからには、祖母には健太の後見人になる方法はないのである。

 健太の父が、「裁判」と言っているのは多分、子どもの引渡しの請求のことと思われるが、この裁判では勝っても強制的に子どもを連れて行くことはできず、子どもを引き渡さない時は1日当たり金○○円を支払え、といういわゆる間接強制の方法によらざるを得ない。

 A子に考え直してもらって、A子の申立で「親権者変更の申立」を出して協議するしかないと答えたものの、A子は、今や好きな彼氏と二人でルンルン気分で全く健太のことは眼中にないそうで、健太と祖母が夜も眠れぬ毎日を送っているのである。

 母性は本能ではないのか……。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。