8月20日 離婚の原因

 A男は現在妻と離婚裁判で争っている。どちらも離婚に合意しているものの、どちらが離婚原因を作ったかで争っているのである。妻の方は夫から暴力をふるわれたと言っているが、A男にしてみれば双方激しい口論のさなか、ちょっと小突いた程度だと言う。また、妻はA男に対してだけではなく、A男の母からひどい仕打ちを受けたとか、A男の父は私の無学をバカにしたとか、作文に書いて証拠として提出している。A男は「これは名誉毀損だ、訴えてやる」と息まいている。

 刑法二三〇条は名誉毀損の定めだ。「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する」というものだ。

 ここで、「公然」という要件を満たさなければならないが、「不特定多数の者が認識しうる状態」と定義されている。街宣車で宣伝してまわるとか、新聞に広告として掲載するとかが考えられる。簡単にいえば噂として広がっていくような状態である。

 これをA男に説明して、単に裁判で作文として提出しただけでは「公然」とはいえないと言うと「だって妻はママ友の間でも話しているようだ」と言う。

 インターネットの書き込みは不特定多数の人が閲覧できるので「公然」に当たるかもしれない。そして民事的にも慰謝料の支払いが認められるかもしれない。

 しかし、離婚裁判の中での文書による名誉毀損で仮に告訴したとしても警察が動くとは思えない。

 A男は「じゃあ妻の方はやりたい放題なんですね、私も妻の悪口を言いふらそう」と言う。なんと低次元の争いか。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。