12月10日(2021年)遺言執行者

 A子が老齢の母親を連れて事務所に来た。母親は遺言を書きたいと言う。A子の下に弟がいるが、大学を中退してからは一切家に寄りつかず、最近珍しくやって来たと思ったら、金の無心ばかりでまったく子どもとしての気遣いも思いやりもなく、10万円を持たせてやると、またプイっとどこへともなく出て行ったという。

 それに反しA子は私が連れ合いを亡くしてからは同居して親身に世話を焼いてくれ、私は安心していられる。だから私の財産(土地・建物・預貯金約1000万円)はすべてA子に相続させたいと言う。

 そこで私は「私の財産は長女A子に相続させる。長男は長いこと音信不通で親子の情愛もないので、相続人から廃除する」という内容の遺言を書き、これを公正証書にすることを勧めた。

 さて、そこで問題なのは私は母親のための遺言執行者になったほうがよいかどうかということである。遺言執行者になれば、母親が亡くなった後、不動産や預貯金をA子の名義にするなどの手続きをしてやることができる。しかし、もし弟から遺言の成立や内容について争われた場合は、私はA子の代理人にはなれない。遺言執行者というのは、あくまでも遺言をした人のために仕事をする者で、相続人間の争いには関与できないのである。

 以前、遺言執行者になったばかりに、親の遺言作成を依頼に来た娘が、他の相続人から訴えられたときに、その娘のために代理人になることができず、娘から「先生を頼りにしていたのに、いざ困ったときには頼りにならないのですね」と言われて、遺言執行者たる者の職責について説明をしたがなかなか理解されず、双方つらい思いをしたことがあった。さて、今回はどうしようか。公正証書遺言を作成するだけに止めて、死後の手続きは子自身にさせることにするか。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。