5月10日(2021-5-10)

 A子は夫の暴力、暴言に耐えかね高3の長女と家を出て実家に身を寄せている。離婚を決意したが、夫は慰藉料や財産分与の支払いに応じず解決まで長引きそうだ。

 A子はいつも最悪のシナリオを描く。子どもは貧乏で職もなく病気がちな母親より金回りの良い父親のほうを選び、子どもの親権者は父親がなるのではないか、私は職もなく、子どもも取られ、何の希望もなくこの先どうやって生きていこう、と。私がそうならないように貴女が親権者になって夫に養育費をきちんと払ってもらいましょうと言っても、大学受験するとなったらその費用もちゃんと出してくれるだろうか、やはり父親を親権者にしたほうが子どものためかと悩んでいる。夫は一銭も金を払わないと言っている。それでも請求すると夫を怒らせてしまい、この先何をされるかわからない。それなら何も取らずに離婚するしかないのか。私が「きちんと夫名義の財産を調べたり、会社に退職金規定の問い合わせをしたり、また、DV相談も受けていたという証拠を出して慰藉料も請求しましょう」と言っても、長年夫の影響下にあったせいか、夫に対する請求がそんなにうまくいくとは思えないといつも暗い顔をしている。

 これに反しB子はいつもあっけらかんとしている。離婚に際しては夫から莫大な金を取り、私は新しいマンションを買ってそこで悠々自適な生活を送るのだと夢を描いている。夫は自営で不動産も沢山持っている。会社の経営もうまくいっていると言うのだ。しかし夫名義の不動産はすべて親から相続したもので夫婦財産ではないし、会社の資産も会社のものだから貴女が請求できる物はそんなに沢山ではないはずだと言っても、夫は私をそんなにひどい状況にはしない、ちゃんと死ぬまで成り立つように考えてくれるはずだと確信している。甘い!  私の依頼者は超悲観的か超楽観的かどっちかで、冷静な判断ができる依頼者というのは少ないものだ。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。