3月20日 (2021-3-20)

 夫婦が離婚するとき、それまで夫婦が取得した財産を夫婦で分けることになる。仮に住宅を取得するときに夫名義にしたとしてもそれは夫婦の共有財産であるから名義の如何を問わず原則2分の1ずつに分ける。もしオーバーローン(ローン残高が建物の価値を上回っていること)であればマイナスの分を夫婦で2分の1ずつ負担することになる。
 この原則を説明したところ、A子は納得がいかないと言う。夫は遊びが派手で何人もの友達を連れて豪華に飲み歩き友達の分もおごるからいつもお金がなくてピーピーしていた。現に夫の給料が振り込まれる通帳残高は0に近い。これに反しA子は毎月夫から渡される給料、自分のパート収入をせっせと貯金し、欲しい物も我慢して20年の結婚生活の内に約500万円を貯め込んだ。それを夫婦財産として自分から夫に250万円を渡さなければならないというのは全く腑に落ちないというのだ。
 A子の言い分は最もである。しかし、婚姻中どちらがどれだけ費消したかをいちいち再現することなく、残っている財産を分けるというのが法律上の建前なのだから如何ともしがたい。夫が家庭を省みることなく豪遊していたというのがA子の慰藉料請求の原因になるとしても、それは不貞や暴力の慰藉料とは違ってそんなに大きな額にはならないだろう。
 財産分与に関して夫のほうからの不満というのは退職金に関してだ。離婚時にもし退職するとすればいくら退職金が貰えるかを計算して原則その2分の1を妻に財産分与として支払わねばならない。
 B夫の場合、一部上場会社で収益も高かったので50歳の今、退職すると約1000万円の退職金が出る計算だ。「奥さんが家事・育児をやっていたからあなたが心置きなく勤めることができたと考えるのだから、退職金は夫婦の財産だと考えることは仕方ないでしょう」と言うとB夫は「とんでもない、妻は若い頃から家事・育児は手抜きで友達と遊んでばかりいました。いつも実家に帰って気ままな生活をしていたのでその間私は自分で料理して子供たちに食べさせたり、会社の帰りに大量の買い物をしたり、土日は子供たちを遊びに連れ出したり、まさに一人二役をこなしていたのですよ」と言う。しかしそのような日常の生活態度で財産分与の割合が変わることはあまり考えられない。せいぜい日常の怠慢を慰藉料の原因と主張することは考えられるが、これもせいぜい数十万円にすぎないだろう。
 法律の考え方に対して不公平だと思う人は世の中にたくさんいるはずだが、個別のケースがどれだけその不公平を主張できるかは疑問なのだ。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。