9月10日 (2013-9-10)

 老人施設に入っている人の遺言作成に立ち会うことがよくある。
 依頼者は、たいていはその老人ではなく、息子・娘・甥・姪らだ。
 先日は、娘のA子からの相談で「80才になる父が、しょっちゅう慰問する私に感謝して、財産を全部私にやると言っているので、その旨公正証書にしたい」と言う。
 その父親B男には、他にも相続人として息子がいるので、全部を娘のA子にというのは、後で遺留分の問題が起こる。「遺産の4分の3をA子にしたらどうか」、さらに、「Bさんは高齢なので、後で遺言の効力が問題にならないよう公正証書にしましょう」と私はアドヴァイスし、「父親もそれでいいと言っている」とA子が言うので、公証人と事前に打ち合わせをし、必要書類一式を揃えて、公証人、それから証人となる人と共に、B男が入っている施設を訪ねた。
 B男は、公証人と私の役目については理解できたようだが、いざ遺言を作成するというと、その内容に入る前に、「遺言を作ると何だかすぐ死ぬような気がして嫌だな」と拒否する。そこで、遺言は死ぬ間際ではなくて、元気なうちに作っておくものですよと説明したところ、B男はやっと納得してくれ、作成に至った。
 同じように、娘のC子から母親の遺言を作りたいという相談を受け、D美の入所する施設に行って公正証書を作成しようとしたら、D美は、「そんな大事なことは、夫と相談しなきゃダメ」と言う。
 「え? ご主人は、もう10年前に亡くなっているのではありませんか」と言っても、要領の得ない返事しか返ってこない。「3人の子どもたちの名前を言ってみて下さい」と言っても、ろくに言えない。
 さらに、D美は、入所している施設を自分の家と勘違いしていて、「これは仙台市に寄付する」とか言う。
 同行していた公証人と相談して、このようなD美には、とても遺言作成能力はないと見て、むなしく帰って来たこともあった。
 その後、C子が母親をいじめていなければよいがと、一抹の不安はあった。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。