ぬれ落葉予備軍 (2006-1-30)

 日本人はよく働く。特に日本人男性は実によく会社のために働く。勤めている男性が「ウチでは」という場合は、自分の家庭ではなく、自分の会社や役所のことである。残業に精を出し、土曜・日曜も接待ゴルフや飲み会で、ほとんど家に居ない。

 そんな夫に妻は当然不満を持って、いろいろとぶつけるが、夫は、「僕は今会社で非常に重要な責任を負わされているんだ、わかってくれ、僕が一生懸命働くことはキミや子供達の幸せにもつながることなんだからね」と説得して、相変らずの会社人間ぶりである。

 しかし、日本の妻達は強い。当初は、何とか夫と共通の話題や楽しみを持とうと努力した妻達も、ある段階でさっさと夫に見切りをつけ、自分自身で楽しむことを見つける。スポーツのサークルに入ったり、カルチャーセンターに通ったり、パートに出たり、そして、そこで気の合った仲間を見つけて、一緒に食事したり、旅行に行く計画をたてたりする。また、同じ趣味の仲間と音楽会や観劇にに行く。

 夫達がひたすら会社で働いている間に、妻達の文化程度や知識は高まっていく。

 さて、夫が定年退職してもはや会社に行く必要がなくなると、とたんに何もすることがなくなり、所在なく妻にくっついて歩く。しかし、一緒に音楽を聴いても絵を見ても、夫は到底妻の知識にかなわない。

 妻の方も、夫と一緒に夫の世話をしながら旅行するよりは、気の合った女友達同志で旅行する方がずっと楽しい。

 こうして、ぬれ落葉となった夫と、すっかり夫ぬきで楽しむことを覚えた妻との不協和音が始まるのであるが、利口な妻は、夫が退職する前に、夫の退職金を仮差押して離婚の調停の申立をする。拾いあげれば小さなことでも、離婚の材料はたくさんある。今まで大目に見て来た夫の浮気の1つや2つ、酔って妻を殴った、疲れているといって性交拒否、等々。

 夫の方も、今までは多少良心の呵責を感じていたが、退職したら退職金で女房を世界旅行に連れて行ってやろうと思っている。しかし遅いのだ。そして、女房はわかっていて許してくれているのだと思い続けている夫の考えが甘いのだ。退職金を目前に、妻は敢然と今までの労苦の数々をあげて自分の取り分を主張し、離婚の考えをくずさない。

 私は、これをぬれ落葉予備軍離婚と名付けているが、この夫婦はどの段階で修復不可能になってしまったのだろうと考えさせられる。子ども達が独立した頃かもっと前か、夫が課長になった頃か、いやそもそも結婚当初からか……。

この記事を書いた弁護士

弁護士 藤田 紀子
弁護士 藤田 紀子
藤田・曽我法律事務所代表弁護士

仙台で弁護士を始めて50年以上。

この地域に根を張って、この地域の人々の相談に応じ、問題の解決に図るべく努力をしてまいります。

注:弁護士 藤田紀子は令和5年3月12日に満77歳で急逝いたしました。