相続法改正と長男の嫁問題

相続法改正

民法は大改正が続きます。今,臨時国会で債権関係の改正案が審議されていますが,相続関係の改正についても検討が進められており,法制審議会が中間試案をまとめています。

長男の嫁問題

中間試案では相続法における重要事項の改正が多数検討されています。

その中の一つに,「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」があります。

典型的には,以下の例における長男の妻にも遺産の分配を認めようというものです。

我が国では,長男が家を継ぎ,その長男が親より早く亡くなったとしても,長男の妻が家に残って義父母の面倒を見る,などということが少なくありません。

長男にきょうだいがいたとしても,妹は他家に嫁ぎ,弟は独立して都会で生活しているなどして,長男の妻ばかりが両親を介護する,ということもまた少なくありません。

しかし,現行の法律では長男の妻は相続権がありません。したがってどんなに献身的に介護したとしても,義父母が亡くなったときに相続することができず,遺産は介護をしなかった義妹や義弟に行ってしまいます。

中間試案は,相続人でない人でも,介護などの療養看護等によって被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合は,相続人に対して金銭請求ができるものとしています。

これは,直接相続権を認めるものではありませんが,もしもこのような法改正がなされれば,「長男の嫁」も遺産を相続した義妹や義弟に対して金銭請求することで,間接的に遺産の分配にあずかることができます。

改正は必要か

「家制度」は段々廃れてきたとはいえ,特に田舎の方では上記の「長男の嫁」のような例は珍しくありません。このような人が遺産の分配にあずかれないのはたしかに可哀想であり,中間試案のように法律を改正した方がよいようにも思えます。

しかし,現行法でも,長男と妻の間に子がいる場合は,その子が長男に代わって相続(代襲相続)することができます。また,長男の妻は,義父母と養子縁組すれば相続人になれますし,遺言を書いてもらって財産を残してもらうこともできます。

「介護は有償」と割り切って考えれば,義父母との間で毎月いくらという取り決めをして払ってもらうということも可能です。

他方で,法改正は,遺産の分配を巡る紛争の火種を一つ増やすことになるとの見方もできます。

夫亡き後も無償で義父母の面倒を見るという「長男の嫁」は,たしかに存在はするものの,長期的に見れば,人間関係は今後一層ドライになっていき,どんどん減っていくだろうことも考えると,私は,法改正をする必要はないように思います。

この記事を書いた弁護士

弁護士 曽我 陽一
弁護士 曽我 陽一
弁護士 曽我陽一(新潟の米農家出身。趣味はマラソン)
1998年 東北大学法学部卒
2001年 弁護士登録(東京弁護士会)
2008年 宮城県仙台市青葉区に曽我法律事務所を開設
2022年 藤田・曽我法律事務所開設
2022年4月~ 東北大学大学院法学研究科教授

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