性犯罪の厳罰化
強姦罪と示談
先日,強姦罪の容疑で逮捕された芸能人が,不起訴処分で釈放されました。
被害者との間で示談が成立したためです。
強姦罪や強制わいせつ罪は,告訴がなければ起訴することのできない罪です。このような罪を「親告罪」といいます。
示談が成立すると,被害者は告訴を見送る(既に告訴をしていれば取り消す)ので,どんなに有罪の証拠が揃っていたとしても,検察官は起訴することができなくなります。
非親告罪に
現在,強姦罪などの性犯罪を親告罪から非親告罪に変える法改正が検討されており,法制審議会から法務大臣に正式に答申されました。
非親告罪になったとしても,示談が成立した場合,被害者が処罰を望んでいないという事実は重要ですので,やはり不起訴で終わることもあり得ます。
しかし,少なくとも,示談が成立すれば,それだけで必ず不起訴になるという保証はなくなります。
逆に,たとえ示談が成立しても,悪質だとか,これまでにも同じことを繰り返しているなどの事情があれば,起訴される可能性があります。
性犯罪の厳罰化
法改正案では,非親告罪化のほかにも性犯罪の罰則強化が盛り込まれています。
たとえば,
(1)強姦罪の法定刑引き上げ
「3年以上の有期懲役」から「5年以上の有期懲役」へ。
(2)強姦罪の主体及び行為の拡大
「性交」だけでなく,「肛門性交又は口腔性交」も強姦罪の処罰の対象に。
これに伴い,「男性の女性に対する罪」だった強姦罪が,「男性も女性も,被害者にも加害者にもなり得る罪」に。
(3)監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為等の罪の新設
18歳未満の者に対し,現に監護する者であることによる影響力を利用してわいせつな行為や性行為等をした者は,強制わいせつや強姦罪と同様に罰せられる。
厳罰化の当否
(1)は,強盗罪より低かった強姦罪の法定刑を強盗罪と同じに引き上げるものですので,異論の少ないところかと思います。
(2)については,「強姦罪を拡げなくても,強制わいせつ罪で対処すればよい」との意見もあり得る気がします。
(3)は,家庭内の性的虐待を処罰することを想定した罪で,暴行・脅迫という手段を用いなくても「監護する者であることによる影響力を利用」すれば罪が成立することになりますが,その概念が不明確で,処罰範囲が不当に広がらないか気になります。
この記事を書いた弁護士
-
弁護士 曽我陽一(新潟の米農家出身。趣味はマラソン)
1998年 東北大学法学部卒
2001年 弁護士登録(東京弁護士会)
2008年 宮城県仙台市青葉区に曽我法律事務所を開設
2022年 藤田・曽我法律事務所開設
2022年4月~ 東北大学大学院法学研究科教授
お客様にとって「話しやすさ」を重視しています。法律問題でお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。
最新の投稿
- 2021年4月9日弁護士コラムあきらめるな経営者!事業再生・再建セミナー
- 2020年12月28日弁護士コラム仙台光のページェント
- 2019年7月11日カテゴリー>企業法務取引先が倒産した場合の法的対応・事前対策:仙台商工会議所月報「飛翔」2019年7月号に寄稿しました
- 2018年10月10日カテゴリー>企業法務仙台商工会議所月報「飛翔」に寄稿しました:企業間の契約締結の注意点