「刑の一部執行猶予制度」が開始されました
平成28年6月1日から,「刑の一部執行猶予」の制度が施行されました。
これにより,裁判所は,「全部実刑」「全部執行猶予」の他に,「一部執行猶予」という選択肢を持つことになります。
「刑の一部執行猶予」とは
「刑の一部執行猶予」とは,懲役または禁錮の刑期の一部の執行を猶予し,実刑部分の執行の後に猶予期間を開始する(つまり社会に戻って生活する)ものです。
猶予期間を無事に過ごすことができれば,刑務所に戻らずに済みます。逆に,猶予期間中に再び罪を犯すなどして猶予が取り消されると,刑務所に戻らなければなりません。
たとえば,「懲役1年6か月。うち6か月を執行猶予2年」という判決が出たとします。その場合,1年間刑務所に入った後,釈放されて社会の中で生活し,その後2年間無事に過ごせば残り6か月の刑期はなくなり刑務所に戻らなくてよくなります。
逆に,その2年の間に再び罪を犯したりすれば,刑務所に戻ってあと6か月の刑期を全うする必要が生じます(また,再び犯した罪が仮に懲役1年であれば,それを足した1年6か月を刑務所で暮らすことになります)。
どんな罪が対象となるか ~4つの典型例
この制度の趣旨は,施設内処遇と社会内処遇の連携による再犯防止とされています。ある種の犯罪については,刑務所に長く入れたからといって必ずしも改善せず,むしろ早めに社会に帰して,保護観察所の処遇プログラムなどを利用して更生を目指した方が効果的な場合があります。
そのような犯罪としては,以下の4つが典型例で,刑の一部執行猶予の選択が想定されます。
- 覚せい剤などの薬物事犯
- 性犯罪
- 粗暴犯
- アルコール依存の飲酒運転
あくまで実刑判決です!
「一部執行猶予」というと,何となく実刑と執行猶予の中間のような印象を受けますが,実際は,一定期間は刑務所に入るわけですから,あくまで実刑の一種(バリエーションのひとつ)です。
保護観察を受けます
また,「一部執行猶予」の期間中も,保護観察を受けますし(薬物事犯では必ず保護観察が付きますし,それ以外の罪でも保護観察が付くことが多くなると思われます),保護観察所の処遇プログラム等を受講することなどの条件が付く可能性が高いので,ある程度自由を制約されます。
仮に,猶予される刑期が短い割に猶予期間が長いと(たとえば,「懲役1年6か月。うち2か月を執行猶予5年」など),かえって全部実刑のときより実質的に重い刑になりかねませんので,裁判所も慎重な運用が必要だと思います。
この記事を書いた弁護士
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弁護士 曽我陽一(新潟の米農家出身。趣味はマラソン)
1998年 東北大学法学部卒
2001年 弁護士登録(東京弁護士会)
2008年 宮城県仙台市青葉区に曽我法律事務所を開設
2022年 藤田・曽我法律事務所開設
2022年4月~ 東北大学大学院法学研究科教授
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